大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)97号 判決 1958年10月14日

控訴人(原告) 本木真一

被控訴人(被告) 東京都公安委員会

原審 東京地方昭和三一年(行)第八一号(例集八巻一二号230参照)

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、昭和三一年五月八日付をもつて、控訴人に対してなした同年同月三一日から八〇日間自動車の運転免許を停止する旨の処分は、これを取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、控訴人において、控訴人は本件事故発生の際、その現場を訴外長島英三郎の自転車とは少くとも二米以上の間隔をとつて通過したから、本件事故につき控訴人には責任はないと述べ、被控訴代理人において右事実を否認した外は、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人が被控訴人東京都公安委員会より受けた本件自動車運転免許停止処分に対し、その停止期間経過後においてなおこれが取消を求める訴の利益を有することについては、当裁判所の見解も原審のそれと同一である。即ち原判決の説示するとおり一旦かかる処分がなされると道路交通取締法施行令によりその旨免許証に記載され、右停止期間が満了して停止処分の効力が消滅しても、停止処分自体が取消されない以上は免許証の上よりその記載を抹消し得る規定はないのであるから、違法に一定期間運転免許の停止処分を受けた者は、ただにこれによつて甚しく名誉信用等の人格的利益を侵害されるばかりでなく、運転免許停止という制裁処分を受けたことが前歴としてそのまま存続する結果、或は就職に差支を来たし或はこれが将来の制裁処分の内容に影響を及ぼす等有形無形の不利益を招くこともあり得べく、従つて前記処分に定めた運転免許停止期間経過後と雖も、違法な侵害状態は強度に残存しているものといわざるを得ない。それ故控訴人が違法に運転免許停止処分を受けたとする以上、その停止期間後においてかかる違法状態の排除を求めるため、右処分取消の訴を提起する法律上の利益を有するものと解すべきである。

しかし、控訴人が本件事故発生当時訴外長島英三郎の自転車とは少くとも二米以上の距離を隔てて通過したから本件事故につき控訴人には過失はないとの控訴人の主張事実を認むべき証拠はなく、その他当裁判所は原判決の理由の説示と同一の理由により控訴人の本訴請求は失当であるとの判断に到達したので、これをここに引用する。

しからば、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大沢博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例